おとうと レビュー(ネタバレあり)
【ストーリー】
大阪の町に産まれた丹野吟子は、大の阪神タイガースファンの母の下で育った。そんな彼女には一人の弟がいた。結婚して東京で暮らしていた高野吟子(吉永小百合)は、早くに夫を亡くし、娘の高野小春(蒼井優)と姑の高野絹代(加藤治子)と共に、東京の私鉄沿線、商店街の一角にある高野薬局で生活を営んでいた。
子供のような心のまま大きくなった丹野鉄郎(笑福亭鶴瓶)は、姉・吟子の夫の十三回忌で酒を飲んで大暴れして吟子に酷く叱れた日を最後に、長らく音信不通となっていた。
そうした中で、吟子の一人娘である小春とエリート医師との結婚が決まる。
歯医者の遠藤先生(森本レオ)や自転車屋の丸山(笹野高史)は結婚を祝しながらも、小春が町を出て行ってしまう事を残念がる。
絹代は小春に鉄郎が式に参加するのかと問いかけ、来ない事を知らされると良かったと安堵する。絹代はどうしても鉄郎の事が好きにはなれなかったのだ。
小春の結婚のために手を尽くしてくれた吟子の兄・丹野庄平(小林稔侍)は小春に、「お世話になりました」とちゃんと礼を述べるように告げる。母に頭を下げる小春の姿に、言い出した張本人の庄平が思わず涙ぐむ始末。
披露宴の式の最中に、大阪で親戚に偶然小春の結婚の事を教えられたという鉄郎が駆けつけてきた。
庄平と吟子に十三回忌の失態を繰り返さないため、酒は絶対に飲まないと誓う鉄郎だったが、誓いは直ぐに破られる事になってしまう。
新郎に絡み、若者達に混ざって酒を飲み、頼まれてもいないスピーチをした上に浪曲の披露して、相手方の両親からは嫌な顔をされてしまう。挙げ句には両親への挨拶の場面で眠気からテーブルをひっくり返すという大失態を犯してしまう。
新郎の両親に必死に頭を下げた庄平と吟子。
散々文句を言われた庄平は、鉄郎と縁を切ると宣言してしまう。
翌日、目を覚ました鉄郎は酔っぱらって行った事をきちんと覚えていない。
吟子は昔から鉄郎を庇い続けてきた。鉄郎が学校でタバコを吸えば謝りに行き、万引きしては警察に引き取りにも行った。
もはや限界を迎えて怒る吟子。
本業の大衆演劇がまるで儲かっていない鉄郎は大阪に女がいて、タコ焼き屋をやっていると語る。鉄郎にいい人がいると知った吟子は、役者など止めてタコ焼き屋を本業として、女性と結婚するように諭すが、鉄郎はなかなか受け入れられない。
翌日、大阪へ変えることとした鉄郎。
前日にパチンコで全財産をすっていた鉄郎のために、吟子はそっと電車賃を差し出して見送るのだった。
鉄郎の一件で影を落とした小春の結婚生活は長くは続かなかった。
育った環境の違いや、生活に対する食い違いが生じて、実家に戻ってきてしまったのだ。
自動車の免許を取りに行こうとすれば、そんなものは花嫁修業として先に取っておくものであり実家に教習費を出して貰えと言われ、保険適用外の差し歯をしても、結婚前にしておくものだと言われてしまう。
更に夫の忙しさのあまりにまともに会話することすらままならなかった。
小春に店を任せ、吟子は彼女の夫の職場である病院を訪ねると、彼に小春と話し合って欲しいと頼む。だが、彼は一体何を話せば良いのか、と彼女たちの気持ちを理解する事が出来なかった。
そして遂に二人の離婚が決まってしまう。
夏のある日の事。
吟子を訊ねて一人の女性が現れる。彼女は鉄郎の大阪の恋人だったが、鉄郎が一三〇万もの借金をしてそのまま姿を眩ませてしまったのだと語る。
鉄郎は良い人間だが、酒癖が悪く、ギャンブルもする。今度のお金もきっとギャンブルに使ってしまったに違いないという彼女は、鉄郎と別れるつもりでいた。
将来のためにコツコツと溜めていたお金を一部で良いから返して貰えないかと、申し訳なさそうに頼む。
彼女の姿に吟子は薬局の改装のために溜めていたお金を引き下ろし、全額手渡すのだった。
町にデパートが出来る予定があり、商店街の人々は反対運動を計画。
丸山が吟子を翌日の集会に誘いに来ていたその日、鉄郎が再び吟子の下を訊ねてきた。
鉄郎に借金の事を告げる吟子だが、鉄郎は自分がお金を借りた女性の事を悪く罵るばかり。
その不誠実さに吟子は怒りを爆発させて「もうこれきりにして、お姉ちゃんなんて呼ぶのは」と絶縁を口にする。
小春もまた自分が離婚したこと、吟子がお金を肩代わりした事、更に本当は鉄郎が付けた「小春」という名前が古くさくて嫌いだった事を告げる。
鉄郎はそんな二人に、自分のような人間の気持ちなど判るはずがない、と二人の前から姿を眩ませて消息を絶ってしまう。
月日が流れ、小春は次第に鉄郎の事を忘れていき、幼馴染みの大工・長田亨(加瀬亮)と親密な関係となっていった。
そうしたある日、吟子宛に大阪の警察から電話が掛かってきて、捜索願いの出ていた鉄郎が病院に担ぎ込まれたと報せてきた。
吟子が捜索願を出していた事に驚く小春。
吟子は鉄郎がやってきた最後の日に、酷く顔色が悪く、妙な咳もしていたため、何か悪い病気をいくつも併発させているのではないのかと心配していたのだ。
反対する小春に、小春の名付けについての裏話を聞かせて諭した吟子は、大阪で『みどりのいえ』という施設に預けられた鉄郎の下へと向かう事になるのだが。
キャスト:
高野吟子(吉永小百合)
丹野鉄郎(笑福亭鶴瓶)
高野小春(蒼井優)
長田亨(加瀬亮)
高野絹代(加藤治子)
丹野庄平(小林稔侍)
遠藤先生(森本レオ)
丸山(笹野高史)
小宮山進(小日向文世)
小宮山千秋(石田ゆり子)
相変わらず自然体を意識した作品作りとなっています。
1960年に市川崑監督によって映画化された幸田文原作の小説のリメイクです。
正直、若い人向きではないのだろう。映画館にやってきていた観客も、殆どが高齢で、おそらく50歳以上という人が殆どだったと思う。
作品としての出来は良かったと思う。
笑いどころが各所にあり、クライマックスではそこら中から啜り泣く声が聞こえてきました。
鶴瓶は本当にここ最近で一気に役者として伸びてきた感じですね。
鉄郎のダメっぷりが凄く良く出ている。
それと同時に、撮影中に15kg体重を落としただけあり、闘病後にドンドンやせ衰えていく様が判ります。ガン患者は本当に凄く痩せますからね。
披露宴の談話のシーンは流石というか、本職の落語家ならではという感じです。
吉永小百合はもう今更何も言うまでもなく、はまり役。
駄目な弟に何度と無く厳しく当たりながらも、彼の事を心配して世話を焼いていく様が素晴らしい。
小春役の蒼井優に関しては、鉄郎に怒りを爆発させる場面も良かったですが、何よりもクライマックスで危篤状態の鉄郎の姿を見た時の反応が上手かった。
言葉もなく、声を掛けられても反応できない呆然とした様子は凄いリアル。
小林稔侍はあの立ち上がるシーンだけでかなりの数のリテイクを喰らっているらしい。
いくら縁を切ると宣言していたとはいえ、何で実の兄なのに臨終の時に声を掛けて貰えなかったのだろうか……
それとも母親の面倒を頼んでいたから、大阪には行けなかったのだろうか。
絹代の扱いの悪さったら……
文句ばかり零していた絹代が最後に見せる優しさが凄く印象に残る。
たぶん軽い痴呆症という設定なんでしょうが、大事な場面では悉く邪魔者扱い。それが逆に最後の場面へと繋がって感動へと繋がるのかもしれない。
石田ゆり子の役割は小日向の娘だったのですね。
普通に従業員だと思っていたけど。
最後にそっと囁くところが凄くインパクトあった。
山田監督常連の笹野さんはもう出てきただけで笑いを呼んでいる感じ。
「みどりのいえ」は名前こそ違えども実在する存在ですね。
説明通りに、経営面では余裕は決して存在しない。
大勢が広くはない家で暮らしているけど、みんなが支え合っている。しかしあそこもまた限りがあるので、入れるとは限らない。鉄郎はたまたま空きがあったので入れたけど、空きがなければ入ることすら出来なかったわけですから、もっと大変な事になっていたのかもしれない。
そういう事も考えさせられる一品です。
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散々文句を言われた庄平は、鉄郎と縁を切ると宣言してしまう。
翌日、目を覚ました鉄郎は酔っぱらって行った事をきちんと覚えていない。
吟子は昔から鉄郎を庇い続けてきた。鉄郎が学校でタバコを吸えば謝りに行き、万引きしては警察に引き取りにも行った。
もはや限界を迎えて怒る吟子。
本業の大衆演劇がまるで儲かっていない鉄郎は大阪に女がいて、タコ焼き屋をやっていると語る。鉄郎にいい人がいると知った吟子は、役者など止めてタコ焼き屋を本業として、女性と結婚するように諭すが、鉄郎はなかなか受け入れられない。
翌日、大阪へ変えることとした鉄郎。
前日にパチンコで全財産をすっていた鉄郎のために、吟子はそっと電車賃を差し出して見送るのだった。
鉄郎の一件で影を落とした小春の結婚生活は長くは続かなかった。
育った環境の違いや、生活に対する食い違いが生じて、実家に戻ってきてしまったのだ。
自動車の免許を取りに行こうとすれば、そんなものは花嫁修業として先に取っておくものであり実家に教習費を出して貰えと言われ、保険適用外の差し歯をしても、結婚前にしておくものだと言われてしまう。
更に夫の忙しさのあまりにまともに会話することすらままならなかった。
小春に店を任せ、吟子は彼女の夫の職場である病院を訪ねると、彼に小春と話し合って欲しいと頼む。だが、彼は一体何を話せば良いのか、と彼女たちの気持ちを理解する事が出来なかった。
そして遂に二人の離婚が決まってしまう。
夏のある日の事。
吟子を訊ねて一人の女性が現れる。彼女は鉄郎の大阪の恋人だったが、鉄郎が一三〇万もの借金をしてそのまま姿を眩ませてしまったのだと語る。
鉄郎は良い人間だが、酒癖が悪く、ギャンブルもする。今度のお金もきっとギャンブルに使ってしまったに違いないという彼女は、鉄郎と別れるつもりでいた。
将来のためにコツコツと溜めていたお金を一部で良いから返して貰えないかと、申し訳なさそうに頼む。
彼女の姿に吟子は薬局の改装のために溜めていたお金を引き下ろし、全額手渡すのだった。
町にデパートが出来る予定があり、商店街の人々は反対運動を計画。
丸山が吟子を翌日の集会に誘いに来ていたその日、鉄郎が再び吟子の下を訊ねてきた。
鉄郎に借金の事を告げる吟子だが、鉄郎は自分がお金を借りた女性の事を悪く罵るばかり。
その不誠実さに吟子は怒りを爆発させて「もうこれきりにして、お姉ちゃんなんて呼ぶのは」と絶縁を口にする。
小春もまた自分が離婚したこと、吟子がお金を肩代わりした事、更に本当は鉄郎が付けた「小春」という名前が古くさくて嫌いだった事を告げる。
鉄郎はそんな二人に、自分のような人間の気持ちなど判るはずがない、と二人の前から姿を眩ませて消息を絶ってしまう。
月日が流れ、小春は次第に鉄郎の事を忘れていき、幼馴染みの大工・長田亨(加瀬亮)と親密な関係となっていった。
そうしたある日、吟子宛に大阪の警察から電話が掛かってきて、捜索願いの出ていた鉄郎が病院に担ぎ込まれたと報せてきた。
吟子が捜索願を出していた事に驚く小春。
吟子は鉄郎がやってきた最後の日に、酷く顔色が悪く、妙な咳もしていたため、何か悪い病気をいくつも併発させているのではないのかと心配していたのだ。
反対する小春に、小春の名付けについての裏話を聞かせて諭した吟子は、大阪で『みどりのいえ』という施設に預けられた鉄郎の下へと向かう事になるのだが。
キャスト:
高野吟子(吉永小百合)
丹野鉄郎(笑福亭鶴瓶)
高野小春(蒼井優)
長田亨(加瀬亮)
高野絹代(加藤治子)
丹野庄平(小林稔侍)
遠藤先生(森本レオ)
丸山(笹野高史)
小宮山進(小日向文世)
小宮山千秋(石田ゆり子)
【感想】
『男はつらいよ』で有名な山田洋次監督の最新作。相変わらず自然体を意識した作品作りとなっています。
1960年に市川崑監督によって映画化された幸田文原作の小説のリメイクです。
正直、若い人向きではないのだろう。映画館にやってきていた観客も、殆どが高齢で、おそらく50歳以上という人が殆どだったと思う。
作品としての出来は良かったと思う。
笑いどころが各所にあり、クライマックスではそこら中から啜り泣く声が聞こえてきました。
鶴瓶は本当にここ最近で一気に役者として伸びてきた感じですね。
鉄郎のダメっぷりが凄く良く出ている。
それと同時に、撮影中に15kg体重を落としただけあり、闘病後にドンドンやせ衰えていく様が判ります。ガン患者は本当に凄く痩せますからね。
披露宴の談話のシーンは流石というか、本職の落語家ならではという感じです。
吉永小百合はもう今更何も言うまでもなく、はまり役。
駄目な弟に何度と無く厳しく当たりながらも、彼の事を心配して世話を焼いていく様が素晴らしい。
小春役の蒼井優に関しては、鉄郎に怒りを爆発させる場面も良かったですが、何よりもクライマックスで危篤状態の鉄郎の姿を見た時の反応が上手かった。
言葉もなく、声を掛けられても反応できない呆然とした様子は凄いリアル。
小林稔侍はあの立ち上がるシーンだけでかなりの数のリテイクを喰らっているらしい。
いくら縁を切ると宣言していたとはいえ、何で実の兄なのに臨終の時に声を掛けて貰えなかったのだろうか……
それとも母親の面倒を頼んでいたから、大阪には行けなかったのだろうか。
絹代の扱いの悪さったら……
文句ばかり零していた絹代が最後に見せる優しさが凄く印象に残る。
たぶん軽い痴呆症という設定なんでしょうが、大事な場面では悉く邪魔者扱い。それが逆に最後の場面へと繋がって感動へと繋がるのかもしれない。
石田ゆり子の役割は小日向の娘だったのですね。
普通に従業員だと思っていたけど。
最後にそっと囁くところが凄くインパクトあった。
山田監督常連の笹野さんはもう出てきただけで笑いを呼んでいる感じ。
「みどりのいえ」は名前こそ違えども実在する存在ですね。
説明通りに、経営面では余裕は決して存在しない。
大勢が広くはない家で暮らしているけど、みんなが支え合っている。しかしあそこもまた限りがあるので、入れるとは限らない。鉄郎はたまたま空きがあったので入れたけど、空きがなければ入ることすら出来なかったわけですから、もっと大変な事になっていたのかもしれない。
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